ブックレビュー

「日本人とは何者なのか、を問い続けて」に関するレビュー

この本の詳細 →

“日本人は客体的である”
異文化体験に根ざした言葉だけに説得的

 日本人には主体性がない、没個性的で独立性がなく、依存性が強いとはよく言われていることであるが、これが“日本人は客体である”という独自の言葉で言われると、長年の異文化体験に根ざした言葉だけに説得的である。
 ここから日本人の曖昧さ、仲間意識、受動的で遠慮がち、同調的、他者依存的というような性格が出てくる。
 土居健郎の『甘えの構造』でもそのようなことが言われていたように記憶しているが、これをもう少し理論づけていくと浜口恵俊(*1)の“間人主義の日本”になり、さらに一般化していくと和辻哲郎(*2)の“人間(じんかん)の学としての倫理学”になり、西田幾多郎(*3)の“場所の論理”にさえなっていく。しかも、それが最近、欧米でも評価されているのである。
 ただ日本人の中にも織田信長や坂本龍馬や高杉晋作などの生き方をみると、自主的に主体的に個性的に“百万人といえども我行かん”というような勇気をもった独立人がいた。そういう人々が社会を動かし変革してきたことも確かなわけで、日本人が皆主体性がなかったわけではない。
 とかく他者依存的と批判されがちな日本人だが、日本人の中にもあった主体的生き方に学びたいものである。特に今世紀は──。

*1 浜口恵俊(はまぐち・えしゅん。1931-2008。社会学者。国際日本文化研究センター名誉教授。著書『「日本らしさ」の再発見』『間人主義の社会日本』など)
*2 和辻哲郎(わつじ・てつろう。1889-1960。文化史家・思想史家・倫理学者。『日本精神史研究』『風土 人間学的考察』、「間柄的存在」としての「人間」の視点から、『人間の学としての倫理学』など)
*3 西田幾多郎(にしだ・きたろう。1889-1960。哲学者、京都大学教授。『善の研究』『働くものから見るものへ』など)

小林道憲(こばやし・みちのり。哲学、文明論。元福井大学教授。著書に、「著作集〈生命(いのち)の哲学〉コレクション」全10巻[『文明とは何か~文明の交流と環境』『世界史的観点から現代を考察する~二十一世紀への道』等を含む](ミネルヴァ書房)など)

先頭へ